片道だけのパスポート

−スイスの三十六年

ごく平均的な知識しか持ち合わせず、ただ頑なに、舞踊家になりたいという幼稚な夢を抱き、単身日本を飛び出してきた私は、スイスの一角に住み着いた。この小さな国には、美しい自然も、文化も丹念に磨き上げて育ててきた勤勉で賢い伝統的国民、後を絶たない難民、急増する外国人労働者、すでに住み着いていた日本人男女、また｢男女平等｣を獲得するためにストライキを決起した５０万人もの勇敢な女性がいた。そのような人々を背景に異変し発展し続けるチューリッヒで、私は恥をかき、汗もかき、驚き、感動し、失敗や成功を繰り返してきた。
そして「寛容」と「共存」を選び、根気強い「対話」と「行動」を積み重ねていくヨーロッパ人の姿を身近に見、聞き知ることになった。